ジャズと小噺

(11)雨のニューヨーク State of Mind


Mitukuni Tanabe

たびたび会う田辺充邦という深川出身のギタリストがいます。ギターもうまいのですが、機知に富んだ演奏をしては、おじさんたちを喜ばせてくれます。

はじめてニューヨークに着いたところ雨が降っていたんですって。これも乙なものです。そこで、

「あめのニューヨーク」と叫んだところ、通りかかったアメリカ人が、"State of Mind"とつづけて唄った、なんて話をするんです。

皆さんはビリー・ジョエルのヒットソング"New York State of Mind"の歌詞をご存知ですよね。


もっと傑作な彼自身の武勇談があります。マンハッタンの危ないところを何人かの友人と歩いていたとき、黒人の強盗に「金を出せ!」と脅かされました。田辺君は相手の英語が全然わからず親しげに、

"Nice to meet you"と握手をしたと言うのです。

黒人と見るとミュージシャンに見えてしまうらしく、彼はさらに、

"I am guitar,""Are you guitar?, piano?"とにこやかに続けました。

これで、強盗はばかばかしくなり彼から何もとらずに立ち去ったそうです。回りにいた連中はどうなるかと思っていたのです。

「お前、何しゃべってたんだ、『金を出せ』って言っていたんだぞ」

「・・・・・・?!」

現在は「英語はベラベラだ!」といっては笑わせます。


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